藤野もやむ先生の「はこぶね白書」

藤野もやむ先生の「はこぶね白書」

好きな漫画は藤野もやむ先生から短編集に収録されている「ひとさきの花」です。
木曽義仲の息子、木曽義高と源頼朝の娘である大姫の悲恋が独自の解釈で描かれています。
大姫は愛らしくよく笑うすてきな少女で、人質として結婚をすることになった義高の心を溶かしてくれます。
こころを閉ざしている義高が少しずつ大姫に心を開いていくさまが、ほほえましいです。
実際にあった話ですので、現実もこうだったのかなあと思うと政略結婚のまた違った形が見えてきます。
結局史実どおり、木曽義仲は源氏を裏切り、討たれてしまいます。
その後仇を討ちにくるかもしれない因子をもつ義高も源氏に殺されてしまいます。
クールに見えていた義高の父や故郷を思う子供らしい、武士らしい気持ちが垣間見えて結末になけます。
大姫は義高の死をきっかけにふせってしまうようになり、声がきけなくなります。
史実では今でいううつ病といった心の病に分類されますが、作中では義高の声を忘れないようにと耳をそっと閉じます。
その描写がうつくしく、きれいで、幼いながらにも愛をつらぬいたふたりが美しく輝いています。
藤野もやむ先生の作品は読後感がさわやかで、悲恋も悲しみですべてが埋まるのではありません。どこかさわやかな風が常に吹いている、そういった作品になっています。
世の中にはシリアスでグロテスクな作品もやはり人気がありますが、その中でも群を抜いて人気がでる作品というのは切なさが登場人物の背景に見えると思っております。
そういった深みが、人の心にしみるのだと思います。
わたしは少女マンガや少年漫画、歴史ものが好きなジャンルなのですが、それらすべてが詰めこまれている作品です。

藤野もやむ先生はその読後感だけではなく、万人に愛されるであろう絵も魅力的です。
癖のない絵柄は、わたしも最初に読んだときからすーっとしみこんできました。
今ではだいすきな作家さんの一人です。
こういった作品だけではなくSF作品を手がけるもやむ先生は、現在桑野あさと名前をかえて活動しています。今後の活動に期待している作家さんです。

木曽義高と大姫の悲恋は歴史の中でも涙をさそう話として、さまざまなところで語り継がれています。しかし若い二人の悲恋は、記述することも少なく文献も少ないまま、教科書に載ることはありません。
そんな二人の悲恋をこういった漫画の形で知ることができるのは、とても喜ばしいことです。いろんなひとに漫画を通じてふたりの歴史を知ってほしいと思いました。

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